MIT、胚細胞を形作るシグナルを復元するAIモデル「IRIS」を開発
MITとホワイトヘッド研究所の研究者らが、遺伝子の活動から細胞が発生過程でどの化学シグナルを受け取ったかを推定するニューラルネットワーク「IRIS」を開発した。

MITの生物学助教授Pulin Li氏と大学院生Nicholas Hutchins氏が率いる研究チームは、発生中の胚の細胞がどのシグナルを受け取ったかを特定できる機械学習モデル「IRIS」を開発した。研究成果は2026年9月8日付で、オープンアクセスの学術誌Nature Methodsに掲載された。Li氏はホワイトヘッド生物医学研究所にも所属している。
胚に含まれる幹細胞は、隣接する細胞と交わす化学的なメッセージによって、脳、肝臓、筋肉などの専門的な細胞へと分化していく。こうしたメッセージは、特定の遺伝子のオンとオフを切り替える多段階のシグナル伝達経路を通じて伝わる。長らく、これらの経路は細胞の種類ごとに大きく異なると考えられてきたため、経路を解明するには細胞の種類ごとに一つ一つ検証する必要があり、時間と手間のかかる作業だった。
経路ごとに一貫した固有のパターン
研究チームは、シグナル伝達経路はいずれも遺伝子活動に特徴的なパターンを残し、そのパターンは細胞の種類を問わず安定していることを明らかにした。ニューラルネットワークであるIRISは、細胞全体の遺伝子発現を読み取り、学習していない細胞の種類についても、特定の時点でどの経路が活性化していたかを推定できる。Li氏はこの仕組みを、主に英語で学習した音声アシスタントが他の言語も理解できるようになる例にたとえ、転移学習だと説明している。
このモデルは、6つの主要なシグナル伝達経路の複数の組み合わせに対して、数千のヒト胚性幹細胞がどのように応答したかを、複数の発生段階にわたって追跡した実験データで学習された。その後チームは、細胞が急速に異なる運命へ分かれる原腸形成期のマウス胚の単一細胞でモデルを検証した。IRISは、心臓、腸、筋肉、脊髄の組織へ向かう細胞において、いつどこで経路が活性化したかを正確に予測した。
肺の発生での検証
肺の発生に不可欠な細胞の種類を作るには、どのシグナルが必要かを尋ねたところ、IRISは特定の経路を活性化させると細胞が肺の性質へ向かうと予測し、マウス胚での実験でその予測が確認された。Hutchins氏は「IRISは、細胞が互いに交わす言語を解読する手助けになっている」と述べた。
研究チームは、このアプローチによって再生医療に向けた幹細胞工学を加速させ、疾患の研究や薬剤試験に使われる臓器の小型3Dモデル「オルガノイド」を改善できる可能性があるとしている。より質の高い培養肺組織は、喘息、肺がん、肺線維症の研究を支え、候補となる治療法の評価に役立ち、やがては損傷した組織を修復する治療の指針にもなりうるという。
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